NHKのスペシャルドラマ「こもりびと」の感想。
松山ケンイチって、ほんと、演技上手いね。
今回は、ほかの役者さんたちも、みんな素晴らしかった。
とくに、主人公である、雅夫役の松山ケンイチと、姪の美咲役の女優さん。見たことあるけど、名前は存じ上げない。
父親役の武田鉄矢さんの言葉は、子供のころから、父親に言われ続けてきたことです。
「お前は、将来ルンペン」「お前なんか、さっさと死ねばよかった」「お前は駅の高架下から拾われてきた」
痛いほど、親の期待に応えられていないことはわかる。わかっているけど、どうにもならない、現実との乖離・・・。「学校に行け」「仕事やめるな」「正社員になれ」・・・。
今の親は、子供に手を上げない、らしい。結婚もしたことないし、子供もいない、私にはわかりません。
自分は、30歳を過ぎるまで、父親と、まともに口を利くこともできませんでした。
父は、柔道の有段者。
殴られて、け飛ばされて、投げ飛ばされてきたから、言葉の暴力と両面で、支配されてきた。
今でも、当たり障りのない、意味のないやり取りしかありません。
ドラマを見ていて、父親役のセリフが、次々と心に突き刺さってきて、痛くて、まともに見ていることができなかった。全部、言われたことのあるセリフ。
次々、短剣のように突き刺さってくる
救われたのは、姪の美咲の叔父へのやさしさ。
美咲のやさしさに救われた。美咲のやさしい語りかけがあって、それと、余命の迫った父親の変化もあって、初めて、父親のほうから歩み寄ろうとした。
秀逸なドラマだったと思います。久しぶりに涙しました。
後半は、美咲のセリフに、「カチナシオ」雅夫のセリフに、涙が止まらなくなった。
3回見たけど、3回とも涙腺崩壊だ。
今の世の中、優しくて素直で純粋な人ほど、本来の自分を隠さないと生きていけない、我を通そうものなら、つまはじきにされる。蹴っ飛ばされる。
周囲の信じていた人たち、身近な家族にすら、「ハラスメント」を受ける世の中。
立ち止まることも許されない。ぐるぐる、ごうごうと、ものすごい速さで歩かされて、息を継ぐこともできない。立ち止まって、考えることすら許されない。
「ほんとうに、自分は正しいのだろうか。自分らしく生きているのだろうか。」
疑問を抱くことすら許されていない。
とにかく、あわただしく忙しい。ついていけなくなる。
一度、立ち止まったら、そこからははじかれる、戻れる居場所はない。
「生きていてくれるだけでいい」
ほんとうにそうだろうか。
ハラスメントだらけで、誰もそれを疑問に思わずに、受け入れざるを得なくなっている世の中に、ただ、生きているだけでいいなんて、通用するだろうか。
こんな疑問を感じる、自分は、社会からはじかれるのです。
ドラマは父親が亡くなり、自ら、喪主を名乗り出た主人公、葬儀が始まっても、なかなか部屋から出ることができず、美咲からの電話にも出ることができず。
葬儀が終わりかけたころにようやく参列、かろうじて弔辞だけを読み上げて、終わります。
最近の安っぽい、バーゲンセールみたいな、父の死をきっかけに立ち直る、みたいな、安易な結末ではありません。わずかに希望は持たせているけれど。
そのわずかな希望を見出しても、見えてきた光にすがることに、示された光が、その人にそぐうものなのかは、甚だ、疑問だと思うのです。